| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-097 (Poster presentation)

サワシロギクAster rugulosusにおける湿地型と蛇紋岩型の生態的分化

*西野貴子,大久保理子,亀岡慎一郎(大阪府大・理),中山祐一郎(大阪府大・生命),藤井伸二(人環大)

蛇紋岩土壌の高い重金属濃度は多くの植物にとって有害で,その強い選択圧によって進化した蛇紋岩植物は適応的種分化の好例である。

サワシロギクには地下茎をもつ湿地型集団が全国に,地下茎がない蛇紋岩型が浜松市に1集団,また愛知・静岡県境には蛇紋岩地帯でも地下茎をもつ中間型集団がある。これら集団間の遺伝的分化は小さいことが明らかになっている。今回はこれらの生態型における生活史特性,および異なる土壌条件への生態的反応を中心に生態的分化の実態を明らかにした。

蛇紋岩型は小さい体サイズから開花し、痩果は冠毛が短く大型で,実生の初期成長が早かった。0.1 mM Ni添加では,85%の蛇紋岩型が発芽したのに対し,他では30–40%だった。また,0.05 mM Niで湿地型実生に根の伸長阻害が認められた。蛇紋岩型を湿地条件に移植したものは枯死し,蛇紋岩土壌に移植した湿地型は草丈が低く成長阻害がみられたが,地下茎を出した。中間型の結実率は7%と非常に低く,傷・病害の葉を持つ個体は8割以上に達し生育状況が悪かった。

湿地型は競争種の多い環境で地下茎により集団を維持し,冠毛の長い痩果を遠くへ散布する。一方,競争種が少ない蛇紋岩地帯では近隣の発芽セーフサイトに大きい痩果を散布し,実生を早く定着させ,蛇紋岩型は湿地型とは異なる生活史戦略をとる。また,湿地型の多くは蛇紋岩土壌によって成長阻害が起きるが,中には生残し,蛇紋岩土壌への反応には個体差が大きい。蛇紋岩型では環境に応じた生理的特性が遺伝的に固定された後、適応的な生活史特性を獲得したと考えられる。中間型は湿地型よりも高濃度のNiでも発芽するが、他の二型に較べ成体での病害虫への抵抗力や繁殖力が低く不安定な適応状態と思われる。


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