| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-171 (Poster presentation)

定点カメラによる高山帯の融雪と植生フェノロジーのモニタリング

井手玲子,小熊宏之(国立環境研究所)

1.目的:極めて厳しい環境条件に存在する高山帯では、気候変動による生態系への影響が危惧され、高山生態系のモニタリングの重要性が認識されている。高山生態系において重要な要因である積雪・融雪過程や植生フェノロジーを把握するため、北アルプスの山小屋に自動撮影デジタルカメラを設置し定点観測を行ってきた。本研究では定点カメラの画像解析を利用した新しい観測手法により、複数年の融雪と植生フェノロジーの変動を検出した。

2.方法:北アルプスにおいて、立山室堂山荘に設置した定点カメラ(EOS5D MarkⅡ)により雄山方面を撮影した2009-2013年の約11000シーンと、蝶ヶ岳定点カメラ(Stardotおよび AXIS)から穂高連峰・槍ヶ岳方面を撮影した2012-2013年の約1800シーンの画像を解析した。これらの画像から画素毎に記録されているRGB三原色のデジタルカウント値を抽出し、統計的手法により積雪画素と非積雪画素に判別し融雪過程を調べた。さらに、植生フェノロジーを反映する指標値(Green Ratio: GR)を算出し、展葉・融雪と紅葉・積雪に伴うGRの上昇率と低下率から、植生の緑葉開始日と終了日を求めた。

3.結果:立山における最近5年間の融雪および緑葉開始は2009年が最も早く、2012年が最も遅く谷筋や窪地に生育する雪田植物の生育開始が遅れた。紅葉時期は9月の低温の影響により2009年が早く、2011年は紅葉前に枯死するなど、植生フェノロジーは大きな年変動を示した。定点カメラの画像解析は、高山帯における融雪時期と植生フェノロジーの分布を高い時空間解像度で検出し、多時期かつ多地点での客観的な比較を可能にした。定点カメラを用いた長期モニタリングの継続により気候変動の影響評価が期待される。


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