| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-074 (Poster presentation)

安定同位体比分析を用いたヒグマのトウモロコシ利用の検証とその空間パターンの解明

*秦彩夏,高田まゆら(帯広畜産大),中下留美子(森林総研),深澤圭太(国環研),佐藤喜和(酪農大)

北海道東部地域では、エゾヒグマ(以下、ヒグマ)による農業被害が問題となっており、近年被害対策のためのヒグマの駆除頭数が増加している。本研究では、ヒグマの被害農作物の1つであるトウモロコシに注目し、ヒグマの体毛の安定同位体比分析により得られたヒグマ個体の食性履歴と体毛を採取した位置情報を用いて、ヒグマによるC4植物(トウモロコシ)利用の検証とその空間パターンを明らかにすることを目的とした。動物の体組織のC・N安定同位体比はその個体が摂取した食物資源を反映するため、一定の速度で成長する体組織である体毛を等分し同位体比を測ることで季節毎の食性情報を得ることができる。トウモロコシ(C4植物)が日本の自然下に生息する多くの植物(C3植物)に比べて高いδ13C値を持つことを利用して、各ヒグマ個体のトウモロコシ利用可能性を検証した。

2011年~2013年に浦幌・釧路・白糠地域で得られたヒグマの体毛サンプルは14サンプルであり、そのうち個体識別ができたものが12サンプル(10個体分)、性判別のみできたものが2サンプルであった。これらのサンプルを安定同位体比分析した結果、5個体では晩夏期に相当する体毛部分のδ13C値が他の季節に相当する部分の値と比べ高かったことから、これらの個体はトウモロコシを利用していたと考えられた。晩夏期に相当する体毛部分のδ13C値とサンプル採取地からトウモロコシ作付地までの距離との関係を検討したところ明瞭な関係は見られず、山奥にもトウモロコシ利用個体がいることが判明した。トウモロコシ利用個体の空間パターンを把握するためには、より農地から遠く離れた場所でサンプルを採取することに加え、景観構造等からの影響も考慮する必要があると考えられる。


日本生態学会