| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-136 (Poster presentation)

石狩湾沿岸におけるキタホウネンエビ個体群の消長

*濱崎眞克(北大 環境),守屋開,志賀健司(石狩市),野田隆史(北大 環境)

好適さが変動するパッチに生息する生物のメタ個体群動態を正しく理解する為には、メタ個体群全域を包含する範囲での生息パッチとパッチ占有率の動態に加え、繁殖成功度の時空間変動を明らかにする事が重要である。

キタホウネンエビは北日本のごく限られた地域に分布する甲殻類である。本種は春にだけ出現する融雪プールで孵化・産卵し、残りの期間を休眠卵として過ごすが、融雪プールの水量や存続期間は場所や年により変動する。そこで、本種の最大の生息地である石狩の海岸砂丘林全域の多数の融雪プールと各プールでのキタホウネンエビの存否の30余年間の動態を明らかにし、プール単位での繁殖成功度の時空間変動とそれに影響する要因も検討した。

1981、1982年、1998~2002年、2010~2013年に本種が1回でも出現した地点16個所を対象に融雪プールの出現とキタホウネンエビの存否の調査を行った。その結果、融雪プールが繁殖期まで維持された確率は92%であり、これらにおける本種の出現率は78%であった。9個所(56%)では全調査年において繁殖期まで融雪プールが維持され、且つ本種が出現した。

2012、2013両年に6地点で推定した繁殖成功度(孵化幼生当りの産卵数)は平均5.11(1.05~24.05)であった。休眠卵の生存率と孵化率を考慮すると、この値は局所個体群の存続に十分高い値であると見做せる。尚、繁殖成功度は地点間や年による明確な違いも水量、水面面積との相関関係も認められなかったが、孵化密度が高いほど低下した。

以上の結果は、石狩の海岸砂丘林では融雪プールはそれほど多くないものの、その大半は安定的に形成され、そこではキタホウネンエビの局所個体群も安定的に存続してきたことを示す。この地域は本種の最大の生息地である事から、限られた良好な融雪プールの維持こそが本種の保全に重要であると言える。


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