| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-140 (Poster presentation)

DNAバーコーディング法を用いた放鳥トキの食性解析

*田野井翔子(新潟大・自然科学),石庭寛子(国立環境研究所),関島恒夫(新潟大学・自然科学)

佐渡島では、2008年からトキの試験放鳥が開始され、再導入に向け様々な自然再生事業が進んでいる。順応的管理を進める上で、放鳥されたトキの行動観察をもとに環境選択や餌利用を明らかにし、今後、再生事業の有効性を検証していくことが求められている。その一方で、行動観察を通じて、いくつかの課題も明らかになってきた。例えば、一年を通じて費用対効果の高いトキの採餌環境を創出・管理する上で、利用した餌生物種の情報は不可欠であるが、餌サイズが小さいことで、平均で約80%季節によっては90%近くが不明という状況であった。

そこで本研究では、効率的・効果的な自然再生事業を推進する一助にするため、DNAバーコーディング法によって、放鳥されたトキが実際に利用する餌生物種を特定すること目的とした。DNAバーコーディング法は、糞の残渣を用いることで、胃内容物の採取などの際に対象生物にストレスを与えることがないだけでなく、消化状態に左右されにくく様々な餌生物種が検出できるため、食性解析に適している。解析は、2012年2月~2013年1月に採集した糞を用い、農事暦にあわせて1年間を5つに分けた期間ごとに行った。使用する領域は、脊椎動物ではミトコンドリアDNA  12S領域を、無脊椎動物ではミトコンドリアDNA COⅠ領域を用いた。解析の結果、脊椎動物はドジョウが1年を通して最も多く検出されたほか、侵略的外来種であるウシガエルも検出された。無脊椎動物は、夏期にオサムシ科などの地表性昆虫が、秋期から翌年の春期にかけては双翅目昆虫が多く検出され、利用する餌生物種の季節的変化が確認された。これらの結果に基づき、これまで推進されてきた自然再生事業の妥当性を検証するとともに、今後の再生事業を進めるにあたり配慮すべき点を考察する。


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