| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-142 (Poster presentation)

トウキョウサンショウウオ孤立集団の集団遺伝構造と遺伝的多様性

*菅原弘貴,草野 保,林 文男(首都大・生命)

トウキョウサンショウウオ(Hynobius tokyoensis)は,群馬県を除く関東地方と,福島県のみに分布する日本固有の止水性サンショウウオである.本種は移動分散能力が乏しく,限られた環境にしか生息していないため,その分布域の中には,絶滅の可能性が高い地域個体群が含まれている.とりわけ都市近郊では,開発の影響を強く受け,個体数の減少および孤立集団の増加が懸念されている.そこで,本研究では,遺伝的要素を加味した将来的保全に向けて,現時点での本種の集団遺伝構造と遺伝的多様性を明らかにするために,16の地域集団に関して,ミトコンドリアDNAのcytb領域(650塩基)と,核DNAであるマイクロサテライト領域(5遺伝子座)を用いた解析を行った.cytbに基づく系統解析の結果,福島および茨城県に分布する北部集団とそれより南に分布する南部集団が明確に区別された.しかし,それぞれの集団内部での遺伝的なまとまりは見いだせなかった.マイクロサテライト解析では,北部集団と南部集団の分離はやはり明確であり,さらに南部集団内での西多摩集団(東京都)の遺伝的異質性が明らかとなった.16の地域集団について,ミトコンドリアDNAと核DNAに基づく遺伝的多様性をそれぞれ求めて比較した結果,両者の間には正の相関が認められた.しかし,ミトコンドリアDNAの多様性の集団間の違いは核DNAのそれよりも顕著であり,メスに対するボトルネック効果が強く作用したと考えられる集団が存在した.そうした集団は,東京都の都市近郊の生息地の他,栃木や三浦半島などでも見られた.こうした集団遺伝学的知見を,今後の保全活動にどう生かしていくか議論したい.


日本生態学会