| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-170 (Poster presentation)

小笠原諸島における適切な遺伝的多様性管理のための広域分布植物の集団遺伝解析

*山本良介(京大院・農), 須貝杏子(首都大・牧野), 加藤英寿(首都大・牧野), 兼子伸吾(福島大・理工), 井鷺裕司(京大院・農)

海洋島の生態系は外来種の侵入に対して非常に脆弱であり、在来植生の消失が報告されている。この状況改善のため、外来植物種の駆除と並行して在来植物種の植栽が検討・実施されている。しかし、小笠原諸島の植物種は同島内でも遺伝的に分化した集団を形成している場合があり、同一島内における植栽によっても遺伝的攪乱や遠交弱勢が生じる可能性がある。本研究では、空間的遺伝構造を攪乱しない植栽方針を提案するため、植栽候補種である諸島内に広域分布するシャリンバイとヤロードについて、地理的スケール毎の空間的遺伝構造に応じた種苗配布区を構築した。

小笠原諸島内の聟島列島、父島列島、母島列島において、シャリンバイは20集団651個体、ヤロードは18集団547個体から葉を採取した。シャリンバイで8座、ヤロードで6座のマイクロサテライトマーカーを用いて遺伝子型を決定し、遺伝的多様性、集団間の遺伝的分化、諸島内の遺伝構造を明らかにした。これらの結果から複数の地域区分において分子分散分析AMOVAを行い、どの区分け案の時に最も現在の遺伝分散を維持できるか評価した。

遺伝的多様性を表すアレリックリッチネスおよびヘテロ接合度の期待値は、シャリンバイは3.53±1.44、0.45±0.42、ヤロードは2.08±0.68、0.18±0.11であった。小笠原諸島内の他種と比較すると、シャリンバイは同程度の多様性を示したが、ヤロードは有意に低かった。遺伝的分化および遺伝構造は、両種共に(1)列島間の有意な分化、(2)列島内島間の部分的な分化、(3)島内集団間の部分的な分化が認められた。AMOVAの結果、最も現在の遺伝分散を維持できるのは、両種共に、島ごとに分け、かつ同島内の遺伝構造の違いごとに分けた区分であった。


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