| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-207 (Poster presentation)

GPS首輪を用いたツキノワグマの利用環境解析 ~FPT分析から導いた最適スケールを用いて~

*後藤明日香,望月翔太(新潟大・院・自然研),山本麻希(長岡技大),村上拓彦(新潟大・農)

ツキノワグマ (Ursus thibetanus) は、農林業被害のみならず人命に係わる重大な事故を引き起こすことから里地への出没が特に警戒される。そのため近年多くの個体が有害捕殺され、個体数の減少が危惧されている。ツキノワグマと人との軋轢を軽減するためには、行動や生息地利用といった生態学的特性を知り、科学的かつ計画的な保護管理を実施する必要がある。

動物の利用資源は様々なスケールで階層的に構成されており、動物はそれら資源に反応して行動を変化させる。動物が資源に対して、空間的にどのように反応するのかを知ることは、動物の生息地利用を理解する助けになる。

本論では、GPS首輪の観測データを使用し、ツキノワグマが資源に反応する空間スケールに着目して生息地利用を評価した。空間スケールの決定には、FPT分析 (first-passage time analysis: 最短通過時間分析) を用いた。FPT分析では、動物が景観を認識して移動パターンを変化させる空間スケールを明らかにする。今後、FPT分析は生息地利用評価の空間スケールを決定するために重要な手段となると期待されるが、FPT分析は主に行動解析で用いられる手法であり、生息地利用評価に対して用いられた例は非常に少ない。なお、ツキノワグマの利用環境は季節によって変化することが多くの地域で確認されているため、本論でも、季節別にFPT分析と生息地利用モデルの構築を行った。 

その結果、景観を認識する空間スケールや生息地利用には個体差や季節変動があり、対象個体が要求する資源の違いが、景観を認識する空間スケールの違いに影響を与えている可能性が示唆された。こうした結果を踏まえ、ツキノワグマの生息地利用と、その評価におけるFPT分析の有用性について論じる。


日本生態学会