| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-007 (Poster presentation)

ウンピョウはサーベルタイガーに向かって進化している?

*原野智広(総研大・先導科学),沓掛展之(総研大・先導科学,JSTさきがけ)

非常に長く伸びた上顎犬歯を持つネコ科動物の化石種は,数多く見つかっており,俗にサーベルタイガーと総称される。これらの種は,ネコ科内で現生種と別のクレードを構成すると考えられており,マカイロドゥス亜科に分類される。同様の長大な上顎犬歯は,ネコ科以外でも見られ,哺乳類の捕食動物で少なくとも5回独立に進化してきたと考えられている。これらの長大な犬歯を進化させた動物はすべて絶滅しており,行動や生態を見ることはできないので,この特性の適応的意義を探るために利用できるのは化石情報のみである。しかし,現生ネコ科の中でも,ウンピョウは他種に比べて体サイズの割に長い上顎犬歯を持っており,方向性選択による犬歯の進化が起こっているのではないかと推測される。

長大な上顎犬歯を持つ化石動物の中に,分子系統に基づく現生ネコ科種との関係が推定されている種がある。表現型進化のシミュレーションと近似ベイズ計算を用いる手法(Kutsukake & Innan 2013, Evolution)によって,ウンピョウの上顎犬歯の進化過程で方向性選択が作用したかどうかを検証するとともに,この選択の強さを化石種における選択の強さと比較することができる。体の各部位のサイズは体サイズに伴って変化するので,部位サイズの進化を分析するには,体サイズの影響を統制する必要がある。そこで,種の体サイズに対して上顎犬歯長を回帰してアロメトリー式を求め,種ごとの残差を相対的な上顎犬歯長とした。ウンピョウの上顎犬歯に対する選択の強さを評価した結果,中立進化モデルは棄却され,方向性選択による進化が支持された。この方向性選択は,最も長大な上顎犬歯を発達させた絶滅種であるスミロドン(Smilodon populator)における選択に匹敵する強さであると推定された。


日本生態学会