| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-023 (Poster presentation)

海洋島の微小陸貝にみられる殻形態の保守性と放散

*和田慎一郎, 亀田祐一, 千葉聡(東北大・東北アジア)

陸産貝類はその低い移動力と多様な殻形質から、古来よりよく進化生態研究に用いられてきた。殻はときに生息環境や外敵などに応じて多様に変化し、また化石記録としても残りやすいことから形態進化を調べるうえでも着目されてきた。一方、近年では分子系統学的手法が進むにつれて形態変異と遺伝的変異の不整合性が指摘されるようになってきた。例えば海洋島などではしばしば放散的な分化がみられるのに対し、大陸島などでは形態の変化を伴わずに遺伝的に大きく隔てられるような、いわゆる隠蔽種群を形成するようなケースも報告されている。これらのパターンの違いは、海洋島のような特殊な条件下であったため、あるいは系統的な制約によっておこると考えられてきた。

海洋島では様々な分類群の生物が多様に分化を遂げてきたことが知られており、日本の海洋島・小笠原諸島でも植物や昆虫に並んで多くの固有陸産貝類が記録されている。小笠原諸島固有の陸産貝類であるキビオカチグサ(Cavernacmella minima)は、殻径2mmほどの球形に近い微小貝で、諸島内の多くの島に生息する広域分布種とされてきた。しかし最近の分子系統学的な研究により、キビオカチグサは島・地域ごとに遺伝的に大きく分化した隠蔽種群であり、分岐年代推定の結果から300万年近く殻形態が変化していないことが示唆された。しかし一方で、母島の一地域において扁平型と塔型という極端な殻形態の分化を示す系統が確認された。これらの殻型間で遺伝的な差異はほとんどないことから、つい最近何らかの要因で殻形態の放散がおきたと考えられる。今回の研究では諸島内の一系統において異なる進化パターンが共存することを示しており、キビオカチグサが多様化メカニズムの解明のためモデル系となりうることを示唆している。


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