| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-052 (Poster presentation)

「遺伝子から群集まで」アプローチを再考する

内海俊介(北大・FSC)

この10年、進化生物学と生態学の統合的な理解を目指してさまざまな取り組みがなされてきた。その潮流にあって「遺伝子から群集(生態系)まで」という宣言を掲げた総説や本が数多く出版されている。陸域生態系における研究では特に、植物の遺伝的変異に着目した研究が盛んで、植物の遺伝的変異や遺伝子型多様性が上位栄養段階の生物群集の構造に影響を与えていることが示されてきた。一方、水域生態系では捕食魚類の遺伝的変異が餌生物群集の構造に影響を与えるという実証研究が進められてきている。どちらの研究アプローチも、ある生態系内の相互作用網で相対的に大きなインパクトを持つと予測される基盤種やキーストン種における遺伝的変異に注目し、そのボトムアップ効果またはトップダウン効果を検出するというもので、きわめて類似したアプローチと言える。これらの研究は、遺伝子・個体・個体群・群集・生態系という異なる生物学的な階層を縦断的に結び付けるという研究領域を推進させる上で重要な役割を果たしてきたが、多くのギャップも存在する。

たとえば、大きな地理スケールから収集された個体の遺伝的変異の効果を、圃場のような均一環境で短期間測定するような群集遺伝学の典型的アプローチからは、変動環境下での遺伝的変異の実際的な役割について結論づけることはできない。また、他の栄養段階の生物種における遺伝的変異についてほとんど顧みられていない。しかし、長い世代時間を持つ木本植物の上に暮らす節足動物はきわめて短い世代時間によって急速な進化をする場合があり、その結果、節足動物集団における遺伝構造の変化だけで群集の構造が変動するかもしれない。さらには、階層ごとに変化の時空間スケールが異なることで、進化動態や生態動態にどのように影響を及ぼすのか、という疑問も明らかにされていない。これらのギャップを議論しつつ、最近取り組んできた野外実験の結果を紹介する。


日本生態学会