| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-073 (Poster presentation)

極限環境を生き抜く南極クマムシの生存戦略:まずは生活史から

*辻本惠,伊村智(極地研)

クマムシ(緩歩動物)は、世界中の陸域や海域に生息する微小動物である。驚異的な極限環境耐性能力を持つことで知られるクマムシであるが、生命活動状態における生存戦略は明らかとなっていない。クマムシはこれまでに1000種以上が報告されているが、極度の低温や乾燥、短い繁殖期間という、まさに生物にとっての極限環境である大陸性南極では19種のみしか生息が確認されていない。本研究では、南極の固有種であり大陸性南極で広域に優占しているクマムシ種Acutuncus antarcticusの飼育系を用いて、極限環境を生き抜くクマムシの生存戦略を解明することを目的とし、まずは一定温度下における生活史を調べた。

卵から孵化して24時間以内のA. antarcticus68個体を餌(クロレラ)を入れた寒天培地に移し、15℃下で約24時間毎に産卵・卵の孵化・生存状況を観察し、各個体の産卵間隔、産卵回数、産卵数、卵の孵化率および生存期間を記録した。15℃の飼育下ではA. antarcticusは孵化してから平均9.3日目に最初の産卵を行い(平均産卵数2.7個)、その後は平均7.8日おきに一回に平均4.9個の卵を産卵した。生存期間は平均67.3日、生存期間中の総産卵回数は平均7.4回、総産卵数は平均34.0個であり、産卵した卵の孵化率は97.4%(2241/2302個)であった。15℃におけるA. antarcticusの卵の孵化率は、これまでに報告されてきた種の値と比較して高いことが分かった。また、生存期間中の総産卵回数や総産卵数も、これまで報告のある耐性能力の高い温帯種の値に比べて多く、極限環境を生き抜く南極クマムシの高い繁殖能力が示された。


日本生態学会