| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-159 (Poster presentation)

主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスⅡ遺伝子解析による絶滅危惧種イトウの遺伝的集団構造とその多様性

*江戸謙顕(文化庁),北西滋(瀬戸内水研),秋葉健司(HuchoWorks),大光明宏武(南富良野町役場),川原満(猿払イトウの会),東正剛(北大・地球環境)

野生生物の適切な保全には、対象生物の遺伝的多様性や固有性等の遺伝的保全指標が不可欠である。しかし、遺伝解析に際しては、適応・進化プロセスに直接関与していない中立な遺伝マーカーが使用されることが多い。適応形質に関与する機能遺伝子を解析すれば、中立遺伝子とは異なる結果が検出される可能性が高い。

絶滅が危惧されているサケ科魚類イトウは、個体群により降海型や陸封型があり、また、緩勾配の湿原河川から流速の大きい山地河川まで、多様な環境に適応し分布している。そうした生息環境の差異が免疫応答の差異や局所適応を引き起こす可能性もあり、生息環境の多様性に応じた、機能遺伝子に特有の構造等を有しているかもしれない。

本研究では、イトウ17個体群を対象に、PCR-DGGE法によるMHC class II β エクソン2遺伝子の多型解析を行った。その結果、13塩基置換サイト及び25遺伝子を確認し、そのうち12遺伝子が個体群固有だった。自然選択の有無をZ-testにより判定した結果、正の自然選択が示唆された。多くの個体群間でFSTに有意差が検出され、mtDNA等の中立マーカーでは検出されなかった個体群間の有意差も検出された。一方、中立マーカーで検出された距離による隔離の効果等は検出されなかった。MHCとマイクロサテライトDNAのG'ST間で有意な相関が検出されたが、多くの組合せでMHCにおけるG'STが大きい値を示した。

本研究から、イトウのMHCにおける、中立遺伝子とは異なる遺伝的構造や高い個体群固有性等が明らかとなった。本種の保全にあたっては、各個体群を保護管理単位とすること、個体群間の個体の移植放流を規制すること等が重要であると考えられる。


日本生態学会