| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-163 (Poster presentation)

放鳥コウノトリの採餌行動に及ぼす人為給餌の影響

*内藤和明,大迫義人(兵庫県立大・自然研)

兵庫県豊岡盆地で2005年に開始されたコウノトリの再導入と,2007年から始まった野外での繁殖により,野外に生息するコウノトリは2013年末には70個体余りに達している.しかし,分散定着を促進する目的での補給的な給餌が従来から行われたり,屋根のない飼育ケージに飛来して飼育個体に与えられている餌を採取する個体が現在もいたりするなど,給餌依存の個体がいることは,“自立した野生個体群を確立する”上の大きな課題である.そこで,2010年に策定されたコウノトリ野生復帰グランドデザインでは,野生復帰の短期目標のひとつとして給餌からの段階的脱出が挙げられている.

放鳥個体が人為給餌(意図的・非意図的を問わず)に依存するプロセスを明らかにするために,2006年に放鳥された7個体について,放鳥7日目以降90日間の個体追跡記録を精査し,採餌に関する情報(採餌場所,採餌生物,嚥下頻度等)を抽出した.これらの個体には,補給的に行われた給餌を利用する個体,飼育ケージに飛来して採餌する個体,人為給餌に依存しない個体が含まれていた.採餌生物の種類や体長が記録されているものについては,それを基に採餌生物の湿重を推定し,それ以外は湿重1g未満の生物を採餌したと仮定して,野外採餌と人為給餌による採餌量を区別して1日毎の総採餌量の推移を推定した.

その結果,人為給餌の餌を採取し始めると野外での採餌の時間と量が速やかに減少する傾向,すなわち人為給餌への依存が生じることが明らかになった.人為給餌に慣れた個体は給餌場所やその周辺に繰返し飛来・滞在し,そのために給餌が中止されてもその依存性が低下しにくいことは,大迫・江崎(2011)によっても示されている.野外での自立採餌を促進するためには,人為給餌への依存を断ち切る対策が必要である.


日本生態学会