| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-168 (Poster presentation)

一般市民の生態系サービスの認知に影響を与える要因の検討 -幼少期の自然環境および生き物の選好に着目して-

*今井葉子,角谷拓,竹中明夫(国環研),上市秀雄(筑波大・システム情報系),高村典子(国環研)

生物多様性や生態系の保全のとりくみを広域的・継続的に実施するためには、多様な主体の参画を促す必要がある。社会心理学のアプローチを活用することで、市民の認知の現状を把握し、保全活動への参画を効果的に支援するための社会科学情報を集積できる可能性がある。

これまでに我々は、社会心理学の調査手法を援用した全国規模のインターネット調査を設計・実施した。その結果、「生態系サービス」の1つである「文化的サービス(人々が生態系から得る非物質的な便益、精神的な質の向上など)の認知」が高いほど保全の「行動意図(保全に関連する行動をしたいと思うか)」が高くなるという関係が認められた。

そこで、本研究では「文化的サービスの認知」に影響する社会的要因を明らかにすることを目的とした。同調査の有効データ4994件を対象に、「文化的サービスの認知」の程度を従属変数、現在の居住地の環境と幼少期の自然環境および回答者の属性(年齢、性別、世帯収入)を独立変数とした重回帰分析を行った。その結果、「文化的サービスの認知」の高さは、幼少期に経験した自然環境の多様さと正の関係があることが示された。また、「あなたの好きな生き物は何か(ひとつだけ)」として自由記述を求めた回答結果を内容別に4分類し、「文化的サービスの認知」の結果と比較すると、「好きな生き物はない」回答群よりも、具体的な生き物名を挙げた各回答群の方が、「文化的サービスの認知」の平均値は高かった。これらの結果は、子ども時代に経験した自然環境の「原風景」は、個々人の「文化的サービス」に対する恩恵の評価に影響する可能性があること、さらに「好きな生き物」のような生き物への関心度や好みもまた「文化的サービスの認知」と関係する可能性を示唆している。


日本生態学会