| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA3-177 (Poster presentation)

絶滅危惧種ノグチゲラの遺伝的多様性

*森さやか(科博・分子生物),杉田典正,西海功(科博・動物),山本以智人(環境省)

ノグチゲラは、沖縄本島北部の「やんばる地域」固有のキツツキの一種である。1960~80年代に、生息地である森林の伐採や開発の影響を受けて個体数が減少し、現在の推定個体数は150~584羽と非常に少ない。一般的に、総個体数が500以下になると、遺伝的多様性が低下して絶滅の可能性が高くなると考えられている。本研究では、本種の遺伝的多様性の程度を明らかにするため、近縁の普通種アカゲラと比較した。

ノグチゲラのサンプルは、「ノグチゲラ保護増殖事業計画」に基づいて、環境省と国立環境研究所が2003~2013年に生息域のほぼ全域(約300km2)から採集した成鳥の雌雄各24個体分である。アカゲラのサンプルは、発表者が2008~2009年に北海道帯広市および芽室町(約190km2)で採取した成鳥の雌雄各24個体分である。遺伝的多様性の比較は、両種に近縁であるオオアカゲラのヨーロッパ個体群で開発されたマイクロサテライトマーカー6遺伝子座(Dlu1~6)でおこなった。

ノグチゲラの出現アリル数は、5遺伝子座ではアカゲラよりも少なく、そのうち1遺伝子座には多型がなかった。残りの1遺伝子座のアリル数はアカゲラと同数だった。両種ともに、Dlu1にヌルアリルの存在が示唆され、Dlu3と5の間に連鎖が認められた。したがって、Dlu1および5を除いた4遺伝子座で解析すると、アリル多様度、ヘテロ接合度の観察値および期待値の平均値はいずれもノグチゲラの方が低かった。

本研究によって、ノグチゲラの遺伝的多様性は低い水準であることと、既存マーカーでの解析にはいくつか問題があることが明らかになった。今後の保全事業において、本種個体群の遺伝的構造を高解像度で把握し、遺伝的多様性をモニタリングしながら適正に管理していくためには、新たに多数のマイクロサテライトマーカーを開発する必要があると考えられる。


日本生態学会