| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(ポスター発表) PB2-057 (Poster presentation)

生育環境の変化に対するカラマツの葉の生理的応答

*石森和佳, 小野清美, 長谷川成明, 隅田明洋, 原登志彦(北大・低温研)

カラマツ(Larix kaempferi)は日本に自生する唯一の落葉針葉樹である。カラマツは長枝葉と短枝葉を持ち、長枝葉では生育空間の獲得、短枝葉では生育空間の維持という役割分担があると考えられる。また、長枝葉は順次展葉をするため、先端部と基部で発達段階が異なり、生理応答に違いがみられると考えられる。

本研究では、長枝葉と短枝葉および長枝の先端葉と基部葉との違い着目し、季節変化に対するカラマツの葉の生理的応答を明らかにすることを目的とした。北海道大学低温科学研究所敷地内のカラマツを用いて2012年6~11月と2013年5~11月に葉の光合成速度の測定を行った。また、光ストレス応答の指標として光化学系Ⅱの最大量子収率、クロロフィルおよびカロチノイド量を測定した。

長枝葉と短枝葉では展葉と落葉の時期は異なるが、葉寿命の差はなかった。最大光合成速度は長枝葉が短枝葉より高かった。クロロフィル量は短枝葉で長枝葉より高く、6~8月の差が大きかった。過剰光エネルギーの熱放散の指標となるキサントフィルサイクルの脱エポキシ化の割合は、長枝葉が短枝葉より高く、特に6~7月の差が大きかった。クロロフィル量では長枝葉の中では基部葉で先端葉より高かった。

長枝葉が短枝葉よりも光合成速度が高いという性質はカラマツの生育にとって有利になるであろう。長枝葉は十分に発達していない展葉し始めの6~7月に、光合成で利用できない過剰光エネルギーを熱放散して、光ストレスに応答していると考えられる。本研究では個体密度が低い場所のカラマツを用いたため、個体内の光環境の差が大きくならず、長枝先端葉と基部葉で、クロロフィル量以外に差が得られなかった。長枝葉と短枝葉では発達段階や季節に応じて異なる生理的応答を示すことから、カラマツは季節に適した葉を使い分けて生育していると考えられる。


日本生態学会