| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S04-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

海洋プラスチック汚染:海洋生態系におけるプラスチックの動態と生物への影響

山下麗(東京農工大)

プラスチックは我々の生活に不可欠であり、その生産量は現在年間2億トンを超え増加し続けている。一方で、廃棄量も増加しており、適切に処理されないものは最終的に海洋へと流出する。プラスチックは難分解性であるため、海洋中のプラスチック量は増加しており、全海洋ゴミの約7割を占めている。海洋に流出したプラスチックは分解せず長期間にわたって海洋中に存在することから、海洋生物に対し悪影響を及ぼしている。海洋へ投棄されたプラスチック製の魚網が、ウミガメ、オットセイや海鳥に絡まり溺死させる現象「ゴーストネット」が起きているが、最も大きな問題は、様々な海洋生物がプラスチック製品を飲み込むという点である。特に海鳥の報告が最も多く、対象種のうち半数以上でプラスチック摂食が確認されている。プラスチック摂食による影響は2つ考えられる。第1は消化管内にプラスチックがあるために起こる消化機能の低下である。第2はプラスチックに添加された、あるいはプラスチックが環境中から吸着した汚染物質が、生物体内へ移行することである。プラスチックに吸着するポリ塩化ビフェニル(PCBs)とプラスチックに難燃剤として添加されているポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)について、外洋性海鳥の脂肪を分析したところ、PCBsではプラスチック摂食量と相関があり、PBDEsでは製剤由来とみられる組成を示した。これらの結果から、プラスチック摂食によって汚染物質が生物へ直接的に蓄積していることを示唆している。従来、PCBsやPBDEsといった疎水性の汚染物質の海洋生物への取り込みは、餌由来で生物濃縮されることが知られている。しかし、プラスチックが汚染物質のキャリヤーとしてふるまうことから、海洋生物のプラスチック摂食が生態系内での新たな汚染物質の暴露ルートとなり、化学物質の海洋生物への脅威が増すと考えられる。


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