| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S06-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

異なる森林景観における菌類多様性の比較

*升屋勇人(森林総研東北),神崎菜摘(森林総研),滝久智(森林総研)

微小環境を利用する菌類では、調査範囲がわずかに移動するだけでも、多様性は大きく異なってくる。これを避けるため、大型の子実体を形成する種類や木材腐朽菌が、菌類の多様性調査の中心であった。しかし、菌類には他生物と相互作用を有する種類や遺伝資源として重要な種類があるため、より広範囲な分類群を対象に森林改変に対する多様性への影響を明らかにする必要がある。本研究では空中浮遊菌や特定の機能群の菌類を対象に、森林景観の違いが菌類の多様性に及ぼす影響を調査した結果を紹介する。各種林分でエアサンプラーを用いて空中浮遊菌を収集し、DNA解析に基づき多様性評価を行った結果、林齢や広葉樹林率では多様性自体への顕著な影響は認められなかったが、種レベルでは、樹種の違いや広葉樹林率、林齢によって、頻度が減少、もしくは増加する例が見られた。また、各林分において、直接分離法で主要な機能群を検出した結果、土壌中のPenicillium属菌では明確には分からなかったものの、葉内生菌のTubakia dryina、リタ―分解菌のXylaria sp.やBiscogniauxia maritimaでは各出現頻度と広葉樹林率との間に何等かの相関関係が認められた。ただし、因子分析の結果、広葉樹林率よりも森林組成や林齢、基質量の影響が大きいと考えられた。菌類の多くは基質嗜好性が高いため、その出現の有無、頻度は基本的には基質量で決まると考えられるが、このことは本研究からも示唆された。菌類の種類によっては森林改変の影響評価の際に指標生物になるかもしれない。また、逆に、森林景観の改変下においても菌類の多様性や機能を維持するためには、物理化学的環境だけでなく、各基質量を考慮することが重要になる。


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