| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S07-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

着生および亜高木のアリ植物に見られる共生系を維持する化学的機構

*乾陽子(大教大・教養), 田中洋, 市岡孝朗(京大・人環)

ランビルヒルズ国立公園の原生林で優占するのはフタバガキ科であり,これらの林冠木の樹冠には,シダやランなどの着生植物が多く見られる.こうした着生植物が提供する微小生息場は,主として樹上性のアリ類が占有している.特に,調査地によく見られる着生のビカクシダ(Polypodeaceae)2種は,明瞭なdomatia(空隙構造)を有し,そこにシリアゲアリのCremotogaster difformisが排他的・絶対的に営巣する.このアリ種は攻撃性が著しく高く,樹上のアリ群集の多様性を低下させるほどである.また,アリ類だけでなく植食者を排除する効果があり,大規模なアリ除去実験の結果から,C. difformisは林冠木の被食度をよく減らすことがわかった.

多様性でごった返す樹冠において,C. difformisと着生シダのコンビネーションは画一化を促進しているようにも見えるが,着生ビカクシダのdomatiaには,この強力なアリの攻撃を交わし好適な微小生息場を得る好蟻性の節足動物が複数生息していた.そのなかで最も豊富だったのがユモトゴキブリP. yumotiである.特筆すべきはP. yumotiが自身の化学的プロファイルをアリコロニーに蔓延させ,多くの好蟻性昆虫に知られる化学擬態とは,いわば真逆の方法でアリ巣に潜入していたことである.C. difformisは,着生シダさえあれば樹冠に君臨し,高い排他性を示す一方で化学的セキュリティーを致命的に欠くように見える.

同じ調査地に分布する,樹木であるオオバギ属アリ植物において見られたムラサキシジミ類の特徴的な化学的戦略についても紹介しつつ,好蟻性昆虫の化学戦略がこれまで考えられていたよりもずっと多様である可能性を示したい.


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