| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨 ESJ61 Abstract |
シンポジウム S15-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
生態学における数理モデルには、多数の変数を含み多様なプロセスを表現する現実的なモデルと、本質を捉えようとして少数の変数だけしか追跡しない単純なモデルとがある。モデルの対象となっているシステムでは,個体の間に、種だけでなく年齢、性、場所、社会的地位、体調などさまざまな違いがあり、詳細なモデルといっても、それらのいくつかを表現し、他の違いを無視して束ねることではじめて数理モデルとして成り立つ。
本講演では、多数の変数を持つ複雑モデルと、少数の変数しか持たない単純モデルがあるときに、それらの間に矛盾が無いための条件について説明する。単純モデルの少数の変数は、複雑モデルの多数の変数から計算できるものである。単純モデルの変数の将来の変化は,複雑モデルにより計算した値から計算する正しい値と、単純モデルを用いて計算した値とが、もしすべての状況で一致するとすると、完全アグリゲーションが成立するという。両者が力学系(非線形の微分方程式システム)で与えられる場合について、この必要十分条件を導いた。例として、(1)複数の競争種を束ねた場合、(2)複数の生息地をまとめた場合、(3)齢構成を単純化した場合、(4)捕食者被食者系で両者の比率のみに注目した場合、などを例にとり説明する。条件は厳しすぎて多くの場合に成り立たないが、どのような状況でモデルの単純化が誤差をもたらすかについての洞察が得られる。
次に、単純モデルによる予測の誤差を最小にする最良アグリゲーションを議論する。モデルの予測が短期的予測に使う場合と長期予測に使う場合で最良の単純モデルが異なることがわかった。