| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第61回全国大会(2014年3月,広島) 講演要旨 |
日本生態学会宮地賞受賞記念講演 3
生態学の研究をはじめる時、どのような現象を研究対象として選ぶだろうか。指導教員や先輩研究者に与えられたテーマに関連したものかもしれないし、最新の論文を読んで興味をもった事象かもしれない。野外で実際に観察した現象に興味をもち、これがどのような仕組みで生じているのかを明らかにしようと思うのは、研究対象やテーマを決める時によくある動機だろう。
演者はこれまで、植物上の昆虫群集の構造と動態、小笠原諸島における外来種が在来動物相に及ぼす影響、腐食性昆虫の生態系機能など、陸上生態系の野生動植物を対象に研究を行ってきた。主に、大学院での課程や、所属機関におけるプロジェクトの枠組みの中で取り組んできた研究であった。しかし、演者自身が充実して取り組めたと感じるテーマは、そうした教育課程や研究プロジェクトの中心課題とは別に、野外で観察した現象から着想を得て独自に始めた研究だった。
野外観察を通じて興味を抱く現象に出会う。なぜ、どのようにその現象が生じているのか、まず自分の頭で考え仮説をたてる。現象がすでに研究論文として報告されたものであるか、また仕組みについての仮説がすでに提唱されているのか、そして実証されているのかどうかを調べる。現象がこれまで報告されていない場合、また報告されていても仕組みについての仮説が提唱されていない場合、そして仮説は提唱されていてもほとんど実証されたことがない場合、ユニークな研究を始めることができるかもしれない。どのように仮説を検証するのか、具体的な実験設定や方法を考えるのも研究の大きな楽しみの一つである。しかし、こうした研究の過程は、研究論文の中にはほとんど記述できないし、されていない。
本講演では、演者がこれまで野外観察から着想を得て始めた研究事例について、その過程を紹介したい。