| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | 日本生態学会第61回全国大会(2014年3月,広島) 講演要旨


日本生態学会大島賞受賞記念講演 1

熱帯雨林における昆虫の長期研究:多様すぎる昆虫の群集生態に挑む

市岡孝朗(人間・環境学研究科)

 熱帯雨林に生息する驚異的に多様な生物は、数多くの博物学者、分類学者、進化生物学者、そして生態学者たちを魅了してきた。多くの生物学者が世界各地の熱帯雨林に足を運び始めるようになってから、すでに200年近く経過した今になっても、熱帯雨林では、珍奇な形態や習性をもった生物の発見は後を絶たない。また、ごく一部の分類群以外では、既知の種であっても、個々の種の行動・生活史・食性・個体群の変動要因などの基本的な生態特性はほとんど何もわかっていない。生態学者には、個々の分類群の生態的な特性を具に解き明かしていくという重要な課題が与えられている。群集に目を向ければ、生態学にしか解くことのできない、そして生態学が扱うべき、重要で興味深い問題がたくさん存在する。なぜ膨大な種数の生物が狭い場所に共存できるのか、膨大な構成種の間にはどのような相互作用網が紡がれているのか、相互作用網のなかで個々の種がどのような個体群構造をもち、どのような個体群動態を示しているのか、などなど。

 演者は、こうした問題を意識しつつ、マレーシア・サラワク州のランビルヒルズ国立公園に設置された熱帯雨林観測ステーションを拠点として、20年にわたり、昆虫を対象とした多様性研究・生態学研究を行ってきた。講演では、まず、このステーションの概要を述べ、ここから産み出された、生態学の主な成果を紹介する。次に、演者自身が深く関わってきた、節足動物全般の林冠部における群集生態、アリと植物の間の相利共生系が関与する生物群の群集生態、さまざまな昆虫の長期個体群動態などに関する研究の取り組みとその成果を紹介する。そのなかで、熱帯雨林での生態学研究の面白さと難しさの両面を強調しつつ、今後、熱帯雨林での生態学研究をよりいっそう発展させるには、どのようなことに気を配り、どこに力を注いでいくべきなのか、そして、多様すぎる昆虫をどのように扱うのが良いのか、これまでの研究で私なりに感じたことを述べてみたい。

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