| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) A1-16 (Oral presentation)

水生植物の生育環境としての農業用排水路の重要性について

*片桐浩司,萱場祐一(土研・河川生態)

河川や湖沼周辺の良好な氾濫原が失われつつある今日、農業地域の水路は、湿地や水域の生物にとって氾濫原環境にかわる重要なハビタットのひとつになっている。水生植物については、これまで素掘りの水路が生育可能な環境とされてきた。しかし圃場整備後のコンクリート製水路はハビタットとしてはみなされず、水生植物の生育環境として評価されてこなかった。本研究では圃場整備がなされた農業地域を対象とし、圃場整備後の水路が水生植物の生育環境として機能しているか、また水路のいかなる環境に群落が成立しうるのかを明らかにすることを目的とした。

調査の結果、用水路で0種、排水路で28種、近隣の沼で24種、河川で11種、合計で34種の水生植物が確認された。排水路のみで確認された種は、稀産種コバノヒルムシロを含む9種であった。排水路は非共通種の割合が最も多く、他の環境にはみられない種が生育する環境要素として機能していた。CCAと分類木分析による生育環境解析の結果から、無植生群落は、速い流速、高水深、低泥厚で特徴づけられた。すべての用水路と一部の排水路が該当した。ヘラオモダカ、コウキクサなどの抽水・浮遊植物群落は、高EC、低DOで特徴づけられた。排水路と素掘り排水路の一部が該当した。コバノヒルムシロ群落は、遅い流速、低水深、高泥厚で、湧水の湧出地点からの距離が近いところに成立していた。本群落は最近10年間で大幅に減少したが、この原因のひとつとして春先に実施される泥さらいによる影響が考えられた。周辺の土地利用はすべての群落の分布に影響しなかった。以上から、圃場整備後の農業用排水路であっても、生育基盤となる底泥が水流によって流出せず、水深や流速の異なる様々な条件や湧水の存在によって多様な水生植物群落が成立しうることが示された。


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