| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) A1-17 (Oral presentation)

伊豆沼・内沼におけるクロモ復元に向けた増殖方法の検討

*森晃,藤本泰文,芦澤淳,上田紘司(伊豆沼財団),木村啓,香川裕之(東北緑化),嶋田哲郎(伊豆沼財団)

伊豆沼・内沼は宮城県北部に位置する天然湖沼で、ラムサール条約に登録されている。クロモを優占種とした沈水植物群落は、かつて沼全域に分布していた。しかし、水質汚濁の影響により沈水植物群落は年々減少し、これらを生息場としていた水生生物や食物としていた水鳥の減少を招いた。このような背景から、伊豆沼・内沼では沈水植物群落(特にクロモ)の復元に焦点を当て、2008年から自然再生事業が実施されてきた。過年度の試験では、少数の株を植栽してもアメリカザリガニの食害等により消失し、クロモは定着しなかった。今回、クロモ群落を沼内に復元させる方法の一つとして、大規模植栽を行った。2013年にクロモ約1万株を育成し、沼に設置した食害防止用のフェンス内に植栽した。その結果、翌年に定着・拡大が認められたので、報告する。

植栽用のクロモは屋外水槽で挿し木によって生産した。泥を入れた屋外水槽にクロモの生長先端を植栽し、20cm以上になるまで育成した。育成したクロモを湖底に直接移植した後、食害を防ぐために、25mmメッシュの網で囲って保護した。2013年10月には殖芽を形成し植物体は枯死した。2014年5月上旬、この植栽区画において越冬したクロモの発芽を確認した。8月下旬までクロモは生長し、10月に殖芽を多数生産した。また、7月に植栽区画周辺に自生するクロモの分布を調査したところ、湖岸沿い約700mの範囲で170株を発見した。これは前年に同所で発見されていた株数の10倍以上であった。植栽区画から50m以内に77%の自生株が分布していたため、区画から殖芽が分散し定着した可能性が高かった。以上のことから、大量にクロモを植栽し、網で囲うことによって、群落を経年的に維持し分布を周辺に拡大できる可能性が示唆された。


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