| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) B1-16 (Oral presentation)

東日本太平洋沿岸における放射性ストロンチウムモニタリング~マッセルウォッチから見えるもの~

*苅部甚一(茨城大・広域水圏セ),田中敦(国環研),栗島克明(WDB(株)),木方展治(農環研),柴田康行(国環研)

沿岸域における環境汚染物質モニタリング法の一つに,二枚貝を用いた方法がある(マッセルウォッチ).この手法は,二枚貝の広い生息域,生活様式,物質の濃縮特性を利用している.本研究では,その二枚貝を用いて福島第一原子力発電所(原発)事故によって東日本太平洋沿岸に放出された放射性ストロンチウム(Sr-89,Sr-90)の分布とその変動を明らかにすることを試みた.

調査は2011年6~8月,2012年5月,2013年4月~7月に茨城県大洗町,福島県いわき市,広野町,南相馬市,相馬市,宮城県石巻市,青森県東通村で行った.分析対象は二枚貝軟体部と海水とし,Sr-89,Sr-90,放射性イットリウム(Y-90)のベータ線は低バックグラウンド2πガスフローカウンターで計測した.

2011年と2012年における二枚貝のSr-90は,2012年にかけ全体的に減少しているものの,原発に近くかつ南側で高い傾向があった.2013年は原発に最も近い広野町(原発から南に23km)以外は定量下限値(0.02Bq/kg)以下となった.広野町は2011年:0.17±0.07Bq/kg,2012年:0.09±0.01Bq/kg,2013年:0.06±0.02Bq/kgであり,事故前(2009年,いわき市,相馬市)の参考値(定量下限値:0.02~0.04Bq/kg)よりも高い値となった.海水も二枚貝と同様に原発付近かつ南側で高濃度の傾向があり,それが2013年まで持続していた.また,広野町では2013年(0.04±0.002Bq/kg)も福島県沖の事故前の濃度(0.001~0.01Bq/L)を超えていた.これらの結果は放射性ストロンチウムが原発事故により断続的に海洋に放出され,南側に拡散していることを示唆している.


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