| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) B2-37 (Oral presentation)

日本のカササギの起源と趨勢 -新旧侵入個体群のマイクロサテライト解析-

*森さやか(酪農学園大),長谷川理(エコ・ネットワーク),江口和洋(九州大),早矢仕有子(札幌大),藤岡正博(筑波大),A. Kryukov(FEB RAS),西海功(科博)

カササギ(Pica pica)はカラス科の鳥類であり,ユーラシア大陸,北米大陸に広く分布している.本来日本には生息しないが,九州の佐賀県南部と福岡県南部の狭い地域には,約400年前に韓国から移入されたとされる個体群が定着,生息していた.古文書によると,数つがいが佐賀市と柳川市の近辺に移入されたと伝えられ,その後長い間その周辺から分布を拡大することなく,低密度で個体群を維持してきた.しかし,1960年代以降になると急速に個体数を増加させ,現在では佐賀県全域,福岡県の北九州市付近を除く全域および隣接する熊本,長崎両県まで分布を拡大している.

1980年代に入ると,北海道の室蘭市や苫小牧市でも観察例が報告され始めた.現在は苫小牧市を中心に,およそ200個体からなる安定した個体群が定着,繁殖しているが,その起源は明らかでない.

そこで発表者らは,北海道個体群の起源を推定することや,個体群の趨勢と遺伝的特性との関係を明らかにすることを目的に,侵入後急速な増加傾向にある北海道,長年狭い分布域を維持していた九州,起源地の可能性がある韓国や極東ロシアの個体群を対象に,マイクロサテライト多型解析をおこなった.

その結果,北海道個体群は九州起源である可能性はなく,ロシア起源であると推定された.また,北海道個体群の遺伝的多様性は大陸個体群と同程度だったが,九州個体群では著しく低く,強い創始者効果を受けていることが示唆された.一方で,九州の北部には,対馬海峡を越えた大陸からの二次移入が最近起こったことも示唆された.本研究の結果は,非在来個体群の趨勢は,創始者個体群サイズと移入回数に大きな影響を受けるという一般概念を支持する.


日本生態学会