| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) F1-14 (Oral presentation)

前期更新世後半のモンスーン気候の発達と冷温帯林の背腹性の形成過程

*百原 新(千葉大・園芸)・植木岳雪(千葉科学大・危機管理)・齋藤 毅(名城大・理工)

ブナが優占する本州の冷温帯林は,多雪域の日本海側と寡雪域の太平洋側では種組成が大きく異なる.本発表では日本とその周辺の地質学資料と新潟県魚沼丘陵の植物化石群組成の変遷に基づき,多雪気候と日本海側に特有な植生の発達過程を議論する.本州日本海側では,対馬暖流が供給する水蒸気が,強いシベリア高気圧がもたらす冬の季節風に吸収・運搬され,本州の脊梁山脈にぶつかることで大量の雪が降る.このうち,飛騨山脈や越後山脈といった脊梁山地は鮮新世末から前期更新世前半(約270万年前から150万年前)に本格的に隆起し,対馬暖流が間氷期のたびに日本海に流入するようになったのは約170万年前である.冬の季節風が強大になったのは中国黄土高原の風成堆積物の粒径変化から約128万年前と考えられており,それ以降には間氷期でも冬の季節風が強い時期がしばしば到来したと考えられる.これらの資料から,前期更新世後半の約128万年前の間氷期に多雪気候の条件が整った可能性が高い.新潟県魚沼丘陵には越後山脈山麓の扇状地の末端に堆積した魚沼層群が分布し,ブナを多く含む種実類化石群が頻繁に見つかる.そこで,約240~70万年前にかけての化石群の組成を検討し,氷期・間氷期の気候変化に対応した冷温帯林の組成変化を復元したところ,約143万年前から130万年前に最も大きな組成変化が起こったことがわかった.現在では太平洋側にのみ分布するヒメシャラは,ほとんどの層準の化石群に含まれていたが約130万年前の氷期の地層を最後に消滅する.一方,現在の日本海側ブナ林の林床を構成する低木性の常緑広葉樹種を含む化石群は見つからず,林床の常緑広葉樹群落は約70万年前以降に形成された可能性が高い.


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