| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) G2-33 (Oral presentation)

日本産鳥類のDNAバーコーディング:隠蔽種が意外と多い?

*杉田典正(国立環境研), 齋藤武馬, 岩見恭子, 小林さやか, 浅井芝樹, 山本義弘(山階鳥類研), 染谷さやか, 上開地広美, 樋口亜紀, 西海功(科博・動物)

私たちは、日本繁殖鳥類234種(93%)のチトクロームcオキシターゼ1領域配列をDNAバーコードデータベースとして公開した(www.boldsystems.org)。この領域の小さい種内変異と大きな種間変異は、種判別と隠蔽種の発見に有効である。日本列島のような島嶼地域では、海による障壁によって遺伝子流動が少ないため隠蔽種が多いと期待できる。

博物館収蔵標本の234種1367個体のCOI配列を分析した。平均種内変異の値は、平均種間変異の値より小さかった。日本産鳥類の99.1%でDNAバーコーディングによる種判別が可能であった。一方、4ペア(8種)は、識別できなかった。日本産鳥類の内11種は、種内に1.6%以上(K2P値)の深い分岐があった。より広範囲な日本産鳥類の遺伝構造を調べるために、ユーラシア大陸の既知の鳥類DNAバーコードデータベースに登録された配列と本研究の配列を統合して分析した。日本列島内及び大陸ー日本列島間の海峡に、それぞれ9種と23種が1.6%以上(K2P値)の深い分岐をもつことを発見した。重複種を除くと、日本列島に関係する隠蔽種候補集団を含む種が少なくとも24種にもなった。この割合は北米や南米より高く、ユーラシアの大陸域全体と同程度だった。日本列島が島嶼地域であること、気候変動による個体群の分断と絶滅、融合の繰り返しによるものだろう。日本産鳥類の分類学的、系統地理学的な再検討が必要であることがわかった。発見された分岐の深い個体群の存在する地域は、その地域が遺伝的特異性を生み出す進化的に重要な場所と考えられる。


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