| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-15 (Oral presentation)

津波とその後の復興工事が松川浦(福島県相馬市)の干潟底生動物に与えた影響と現状

鈴木孝男(東北大院・生命科学)

東日本大震災に伴う大津波(波高:8.9m)は、外洋と松川浦を隔てていた海岸堤防(大洲海岸)を数カ所で破壊し、干潟を大きく撹乱した。この破壊箇所はすぐに応急修復が施され、全体で見ると面積はいくらか減少したものの、干潟の多くは残された。しかし、ヨシ原や塩性湿地は一部を除いて消失した。津波直後に激減した底生動物は、生残した個体群からの幼生供給等により2012年には震災前に匹敵する種数が確認され、地点による差異はあるものの、その後も種多様性は維持されている。

一方で、2013年になって松川浦内のガレキの片付けが一段落した頃から、岸辺において破壊された堤防の修復やかさ上げなどの復興工事が一斉に着手された。松川浦の岸辺には底質の異なる干潟が分布しており、カニ類や貝類を始め多くの底生動物の生息場所になっていることから、堤防工事等が岸辺や近辺の干潟に生息する底生動物に大きな影響を与えることが考えられる。

ところで、福島県は2012年に松川浦の全域の岸辺で大型底生動物の生息調査を実施した。この調査は堤防工事が着手される前であったことから、2014年に同様の地点で生息調査を行ない、堤防工事が大型底生動物の生息に及ぼす影響を把握することを試みた。

調査は松川浦の岸辺を20区画に区分し、2014年8月に目視で生息生物を記録し、2012年の生息状況と比較した。その結果、干潟が良好な状態で残されているところでは、干潟に生息する底生動物は2012年と同様に見られたが、堤防工事が完了し、岸辺が掘返されたところでは、見られなくなってしまった底生動物もあった。堤防工事はまだ未着手のところもあることから、今後の工事においては、特に潮間帯上部から潮上帯にかけて生息する底生動物に対する配慮が必要である。


日本生態学会