| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(口頭発表) J1-16 (Oral presentation)

東日本大震災の影響を受けた干潟のアサリに寄生するパーキンサス属原虫の感染率

*木下今日子(岩手大・三陸復興),松政正俊(岩手医科大・生物)

東日本大震災は、三陸沿岸の河口・浅海域を大きく攪乱し、そこに生息する底生生物に大きな影響を与えた。その後、いくつかの底生生物では個体群の回復傾向が見られている。また、震災の影響で新たに干潟となった場所では、アサリをはじめとする底生生物の新規加入が確認されている。しかし、震災が微生物や寄生生物に与えた影響については知見が乏しい。

パーキンサス属原虫(以下、パーキンサス)は、海産の貝類に寄生する原生動物である。日本ではアサリの漁獲量が減少しており、その原因としてパーキンサスによる寄生の影響が疑われている。このため、国内のアサリ漁場では感染診断が実施されているが、アサリ漁場のない岩手県ではパーキンサスの知見がない。そこで本研究では、岩手県から宮城県北部にかけての、震災によって新たにできた干潟3地点を含めた合計9地点の干潟においてアサリを採集し、パーキンサスの感染状況を明らかにした。この結果をもとに、震災がパーキンサスに与えた影響について検討した。

調査は2014年4月〜6月に実施した。各調査地点において、殻長10〜30 mmのアサリ50個体を選び出し、RFTM法を用いてパーキンサスの検出・計測を行なった。

パーキンサスは全ての調査地点のアサリから検出された。新たに干潟となった地点の感染率は2〜28%であった。震災以前にアサリを放流していた地点の感染率は95%以上と高く、このうち1地点では、震災以前の調査でも高い感染率が報告されていた。これらの結果から、パーキンサスは三陸沿岸に広く分散し、震災によって新たな生息環境を獲得した宿主にも感染したことが明らかとなった。また、震災にともなう宿主の生息地の攪乱が、パーキンサスの感染を低下させた傾向は認められなかった。


日本生態学会