| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-023 (Poster presentation)

西宮神社社叢林における侵入種除去後の植生回復

*一之瀬 学, 岩崎 絢子, 大杉 祥広, 石井 弘明 (神大農)

兵庫県南東部にある西宮神社社叢林は、人工的環境に囲まれた典型的な孤立林であり、都市域に存在する貴重な常緑樹林として県から天然記念物に指定されている。2003年に行われた植生調査の結果、植生の偏向遷移が確認された(岩崎・石井2005)。特にシュロが全域に繁茂にしたことで、林床の光環境が劣悪化し、クスノキなどの社叢林に望ましい常緑樹の更新不良が問題となっていた(岩崎・石井2007)。2004年~2005年にシュロの伐倒除去が行われた。2008 年の調査では、林分成長が維持されている一方、トウネズミモチ、マサキなどの緑化樹の侵入が確認された(大杉・石井 2010)。本研究では、シュロ除去後の植生の回復状況や孤立林における植生構造の動態を明らかにすることを目的とし、2014年に行った追跡調査の結果を報告する。

胸高以上の木本個体の本数密度及び断面積合計はシュロ除去後の10 年間に増加しており、林分成長は維持されていた。2008 年の結果と同様にイヌビワ、トウネズミモチ、マサキ、ヤブニッケイの個体数が増加傾向にあった。ヤブニッケイやイヌビワは成木・新規個体ともに社叢全域に分布し、林内にて実生更新していることが示唆された。一方、トウネズミモチ、マサキは林縁部に偏っていたが、危惧されていたトウネズミモチの林内での優占度上昇は見られなかった。クスノキ、ネズミモチ、ヤブツバキは個体数の減少が確認された。荘厳性を求められる社叢ではこれらの減少は憂慮すべき点である。以上の結果からシュロ除去後、林内下層ではヤブニッケイとイヌビワが、林縁では園芸種が優先しつつあると考えられる。荘厳な常緑林の回復には、現在行われている稚樹の植栽や外来種の除去と共に、光環境を改善するなどの取り組みが必要だと思われる。


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