| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-030 (Poster presentation)

異型異熟樹種ナンキンハゼの経年変化

*森家侑生,名波哲,山倉拓夫,伊東明(大市大・理)

種内に雌性先熟個体と雄性先熟個体の両方が存在する異型異熟と言う繁殖システムは他殖による種子生産を促進する巧妙な繁殖様式として知られている。単性や雌性先熟、雄性先熟といった複数の性表現を持つ種では、集団全体で生産される種子の数は、各性表現の個体数の比率に依存する。また、樹木のように長寿命の植物では、個体の性表現はしばしば年によって変化する。

本研究では、異型異熟の落葉高木ナンキンハゼ(Triadica sebifera)の逸出個体群において各性表現の個体数の経年変化とその要因を明らかにすることを目的とした。

奈良県御蓋山の面積約8 haの調査区で、胸高直径5 cm以上の132個体を対象に2004年から10年間行った調査では、非開花、雄性、雌性先熟、雄性先熟の4つの性表現が見られた。雌性のみの個体は見られなかった。性表現はあらゆる組み合わせで双方向に変化した。特に、雌性先熟と雄性先熟の間の変化は、報告例のない興味深い発見であった。

その要因として、まず個体サイズに注目した。雌性先熟個体は雄性先熟個体に比べ、小さくても開花する傾向があり、早熟であった。さらに、繁殖投資量は雌性先熟より雄性先熟のほうが多いことが示唆された。しかし、性表現の変化がサイズに依存する証拠は得られなかった。また、成長量とも関係は示されなかった。

次に、2004年から2013年の10年間に雌性先熟と雄性先熟の両方の性表現を経験した27個体に限定して、性表現の変化を詳しく解析した。2009年に多くの雌性先熟個体が一斉に雄性先熟になり、2010年には多くの雄性先熟個体が一斉に雌性先熟になるという現象が見られた。また、2009年は10年間を通して、個体群全体で個体の成長量が特に高い年であった。このため、2009年にはナンキンハゼの成長量を高め、かつ雄性先熟個体を増やす要因があったことが示唆された。


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