| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-057 (Poster presentation)

植物が花成タイミングを決定する分子メカニズム

*西尾治幾, 永野惇, 岩山幸治, 工藤洋(京大・生態研), Diana Buzas(横浜市大・木原研)

植物にとって花成タイミングは繁殖成功を左右する重要な要素である。そのため、植物は環境の短期的な変動に惑わされず長期傾向に応答することで正しく季節を認識していると考えられる。所属研究室は過去に、シロイヌナズナ属の多年草であるハクサンハタザオを用いて、花成抑制遺伝子FLOWERING LOCUS CFLC)のRNA発現量が季節的に変化し、過去6週間の気温変化に応答していることを明らかにした。発表者らはこの長期応答メカニズムを解明するため、ヒストン修飾に着目して研究を行った。ヒストン修飾はDNAを収納するヒストンに施される化学修飾であり、その種類により遺伝子発現を正または負に制御する。

発表者らはクロマチン免疫沈降法(ChIP法)を用いて、ハクサンハタザオ自然集団を対象としてFLC遺伝子座における転写活性型および抑制型ヒストン修飾の季節解析を行った。その結果、活性型ヒストン修飾レベルはRNA発現と概ね一致する季節変化(夏に高く、冬に低い)を示し、過去6週間の気温に応答していることがわかった。一方、抑制型ヒストン修飾レベルはRNA発現/活性型修飾と反対の季節変化(夏に低く、冬に高い)を示し、過去10週間以上の気温に応答していることがわかった。このことから、抑制型ヒストン修飾が気温の長期記憶として機能し、FLC RNA発現を制御することで長期応答が可能になると考えられた。この仮説を検証するため、数理モデルのシミュレーションを行ったところ、抑制型ヒストン修飾の非存在下ではFLC RNA発現の長期応答性が弱まることがわかった。この結果は、抑制型ヒストン修飾によるFLC RNA発現の制御が、3〜4月の適切な時期の花成開始を保証していることを示している。


日本生態学会