| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-094 (Poster presentation)

窒素安定同位体比を用いた異なる土壌水分環境に生育するヒノキの窒素吸収源の比較

*佐藤和弥(三重大・生資),松尾奈緒子(三重大院・生資),木庭啓介(東農工大院・農),木庭亜弥美(東農工大・農),矢野翠(東農工大院・農),山本浩之(京大院・農),鶴田健二(京大院・農),小杉緑子(京大院・農),勝山正則(京大学際融合),小杉賢一郎(京大院・農)

植物は主に土壌中のアンモニア態窒素,硝酸態窒素,有機態窒素(アミノ酸)といった形態の窒素を吸収している.どの形態の窒素を吸収しているかは樹種や環境によって異なるが,植物の窒素吸収源と土壌水分条件の空間的分布や季節変動との関係についての情報はいまだ不足している.そこで本研究では,植物体の窒素安定同位体比が窒素吸収源の窒素安定同位体比を反映することを利用し,土壌水分条件の異なる斜面上に生育するヒノキの窒素吸収源を推定,比較した.滋賀県大津市の京都大学桐生水文試験地の赤壁流域斜面上部・下部の2地点において, 2014年10月,11月,12月に各3ヵ所4深度の土壌と3個体のヒノキ(Chamaecyparis obtusa)の葉・枝・根を採取し,窒素安定同位体比を測定した.数深度での土壌圧力水頭の測定の結果,土壌は赤壁上部よりも下部の方が湿潤であった.植物体の窒素安定同位体比はいずれの地点でも土壌の窒素安定同位体比よりも低い値であり,それらの値の差は斜面下部の方が大きかった.したがって,土壌が湿潤な斜面下部の個体は土壌中の窒素のうち窒素安定同位体比の低いプール,すなわち硝酸態窒素をより多く吸収していると考えられた.また,11月から12月にかけて土壌中の全窒素の含有量は低下し,窒素安定同位体比は上昇していたのに対し,同時期の植物体の窒素安定同位体比の値には大きな変動は見られなかった.土壌の窒素含有量や同位体比の空間的不均一性が大きいため,あるいは冬季はヒノキの窒素吸収量が少ないため,葉や根の窒素安定同位体比が吸収源の値を反映しなかった可能性がある.


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