| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-147 (Poster presentation)

森林の物質循環に与えるシカとササの影響

*天野創,日浦勉(北海道大学)

世界中で有蹄類の生息域や個体数の拡大が報告されるなか、日本でも同様に有蹄類であるニホンジカの生息域拡大や個体数増加が問題となっている。有蹄類の増加は森林植生に負の影響を与えると考えられている。有蹄類が嗜好性植物を採食するために森林植生の種構成が偏り、実生の採食や成木への樹皮剥ぎ行為のため森林更新が停滞する。しかし、有蹄類が下層植生を採食することで、林冠木と下層植生の栄養塩をめぐる競争の緩和や、有蹄類の糞尿が土壌に栄養塩を供給することから、森林に対して有蹄類が正の影響を与えるとする研究もある。

日本の森林では下層植生にササが優占しており、ササは地下部のバイオマスが大きいために周囲の植生と栄養塩を巡る競争関係にあるかもしれない。一方で増加したニホンジカによる激しい採食に曝されるため、ニホンジカの増加した地域のササのバイオマスが減少している。本研究は北海道地の知床・洞爺湖・苫小牧研究林で行われた。各サイトは火山灰土壌上に成立した森林にシカ排除柵が設置され、シカ排除柵の外側はササを含む下層植生量が少ない。各サイトの森林で林冠に達したミズナラ・ハリギリ・イタヤカエデを対象に緑葉・リターフォール・土壌をサンプリングした。シカの在不在に応じて変化する下層植生量によって林冠木にどのような影響が及ぶのか検証することを目的とした。

知床のミズナラの緑葉の窒素濃度は排除柵外で有意に多く、ハリギリ・イタヤカエデリターの窒素濃度は排除柵外で有意に多かった。洞爺湖の全対象種でリターの窒素濃度が柵外で高い傾向が見られた。また、下層植生のバイオマス増加にしたがってリターの窒素濃度が低下する傾向が見られた。

これらの結果から、シカと下層植生(ササを含む)が森林の物質循環に与える影響を考察する。


日本生態学会