| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-155 (Poster presentation)
アリを含む膜翅目昆虫では,一般的に受精卵(2n)はメスに,未受精卵(n)はオスになる.すなわち,女王アリや働きアリなどのメスは有性生殖でつくられ,両親の遺伝子を受け継ぐが,オスアリはおもに女王アリの産雄単為生殖でつくられ,母親の遺伝子のみを受け継ぐ.ところが近年,核DNAの解析から,これまでの膜翅目昆虫とは異なる繁殖様式が,ウメマツアリなどで報告されてきた.これらのアリでは,娘(新女王アリ,2n)は母親(女王アリ,2n)の産雌単為生殖でつくられるが,オスアリでは,息子(n)は父親(n)の遺伝子のみが入った卵(n)からつくられる(童貞生殖).この場合,遺伝的には娘は母親の,そして息子は父親のクローンになり,雌雄で異なる遺伝子プールを形成する.また,働きアリ(2n)は,両親の遺伝子が入った受精卵からつくられる.本研究で用いたハダカアリは,巣内交尾と分巣で増え,人間の活動に付随して分布を拡大している放浪種とされている.これまでの研究で日本産の本種には,mtDNAのハプロタイプが異なる4つの系統が知られているが,今回,核DNA(ITS領域)をシーケンスし分子系統解析を行ったところ,mtDNAの1つの系統において,オスアリのみのクレードと,女王・新女王アリ中心のクレードが見つかった.この2つのクレードの遺伝子型は互いに異なっており,また,働きアリはこれら2つのクレードの配列をヘテロ接合で保有していた.これらの結果から,ハダカアリの1つの系統において,ウメマツアリなどと同じ方法で繁殖をしている可能性が示唆された.また,本種が巣内交尾を繰り返しながらも近交弱勢を防いでいるメカニズムの解明にもつながることが期待された.