| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-160 (Poster presentation)
進化過程における寄生性の獲得は時に著しい種の多様化をもたらし、また生物間相互作用を通じて宿主の進化や生態系全体にも影響を与える。よって、宿主‐寄生者関係の変遷を明らかにすることは、現在の生物多様性の創出・維持を理解する上で非常に重要であるが、一方で、寄生生物における化石記録の少なさから、その変遷がいつごろ起こったかについては、ごく僅かな知見しか得られていない。
ハナゴウナ科は軟体動物を代表する寄生性分類群であり、白亜紀後期に出現、棘皮動物の全5綱を宿主とする。現生種は熱帯から極域のあらゆる水深帯に生息し、高い多様性を誇る。また寄生形態は様々で、匍匐して宿主を転々とする自由生活に近いものから宿主体表に固着するもの、体内寄生するものを含むことから、寄生進化の研究材料として興味深い。さらに、始新世以降の化石が豊富であり、それらを用いた分岐年代推定が可能である。
演者らは本科貝類の進化史解明を目的に、同科約40属85種について6遺伝子座の塩基配列を決定し、系統解析、祖先形質推定を行った。その結果、宿主の各綱にはいずれも複数系統の貝類が寄生し、個々の系統内で内部寄生が独立に獲得されたことが明らかとなった。また分岐年代推定により、内部寄生性分類群の多くが漸新世(約30 Ma)以降に出現したことが示唆された。同様の進化パターンは吸口虫類などで示唆されているが、寄生戦略進化の年代推定には至っていない。カニ類や魚類が天敵であると考えられるハナゴウナ類にとって、内部寄生性は捕食者に対して適応的であった可能性が高い。そのため本科貝類において、この生活戦略は比較的短期間で、繰り返し進化してきたと考えられる。