| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-162 (Poster presentation)

ヤブツバキとユキツバキの種分化における研究

*三浦弘毅(新潟大学),上野真義(森林総研),阿部晴恵(新潟大学)

一般的に、種は他の集団から生殖的に不和合なグループのことを指し、種分化とはその生殖的な不和合性が進化することと考えられている (Mayr 1942) 。日本全国の海岸沿いに分布するヤブツバキと、日本海側の多雪地に分布するユキツバキの2種は、花糸の合着率や花糸色などで形態的に分けることができると言われ (石沢 2005 ほか) 、また葉緑体DNAでも識別が容易である (上野ほか 未発表) 。しかし、両種は同所的に分布すると雑種を形成することが知られており (桐野 1960 ほか) 、生殖隔離が完全に起こっていないことが推察されている。そこで本研究では、花形態および花色の差異と遺伝的差異を比較することにより、種分化の程度を明らかにすることを目的とした。

花形態解析にはヤブツバキ6集団とユキツバキ7集団、遺伝的差異は日本全国計65集団を用いた。花形態は、おしべ長、めしべ長、雄ずい合着率等を、花色については写真撮影及び測色計を用い計測を行った。遺伝解析では葉緑体DNAのマイクロサテライト領域8座を用いた。その結果、ヤブツバキはユキツバキに比べ、おしべ、めしべが長く、花糸合着率が高かった (p< 0.01) 。PCA解析の結果、両種は大きくヤブツバキ型とユキツバキ型の2つのグループに分かれた。花色ではヤブツバキの方が濃い赤色であった。葉緑体SSRによるクラスター解析の結果 、3個の集団 (北日本ヤブツバキ、南日本ヤブツバキ、ユキツバキ) に類別された。しかし、形態と遺伝解析の結果を合わせると必ずしも一致しない集団が見られた。これらの結果から形態では遺伝的な系統を識別できないこと、さらに日本海側の集団は第四紀の気候変動下において浸透交雑を繰り返していたことが推察され、自然分布でも完全な生殖隔離は起きておらず、種分化の途中であることが示唆された。


日本生態学会