| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-163 (Poster presentation)
種分化研究の課題として、ニッチの適応進化と生態的種分化の関係が注目されている。これは、種内の地理的集団が生息環境の諸条件に対して適応する過程と、姉妹群の遺伝的系統の分化過程がどのように関連し、ニッチの適応進化へと結びつき、生態的種分化へと至るプロセスを解明することが、種分化研究の課題として重視されるようになってきたからである。
しかしながら、実際に姉妹群間で適応形質を観察することでニッチの進化を研究した例は非常に少ない。
そこで、本研究では地域集団間で形質に差異があり、遺伝的な分化が考えられるモリアオガエル(Rhacophorus arboreus )を対象種として、mtDNAに基づく分子系統解析と形態から分けた4集団(東北,東海,近畿,中国)間で生態ニッチモデルの比較と幼生の高温と低温の活動限界水温の比較から、姉妹群間でニッチが分化しているのか、ニッチが分化しているとすれば適応形質に差異が生じているのか、という2つ課題を検証した。
その結果、近畿と中国集団間はニッチが一致したが、それ以外の遺伝的集団間ではニッチが分化していた。また、東北集団は小型(♂頭胴長約47mm)、成体の背面には模様を持たず、幼生には低水温への耐性が見られた。東海集団は近畿集団と遺伝的には近縁でありながら、大型(♂頭胴長約65mm)で、成体の背面に褐色の斑紋を持ち、幼生には高水温への耐性が見られた。一方、ニッチの分化は見られなかった近畿・中国集団は形態も差は見られなかった。注目すべき点は、姉妹群間でニッチ分化niche divergence(近畿・東海)とニッチ保持niche conservatism(近畿・中国)の相反する現象が観察されたことである。
ニッチの進化研究で議論される2つの現象が同時に観察されたことから、モリアオガエルはニッチ進化研究のモデル生物として有用であると考えられる。