| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨 ESJ62 Abstract |
一般講演(ポスター発表) PA1-165 (Poster presentation)
野生集団における表現型の変異は生物の適応進化の素材として自然選択の対象となる。次世代シーケンサーの発達によって遺伝的な変異が明らかとなることで、適応的な表現型に関わる候補遺伝子が数多く報告されている。自然選択を受ける表現型変異としてこれまで研究されてきたアミノ酸配列に加えて、近年では遺伝子の発現量の変異もまた自然選択の対象として重要であることが指摘されている。しかしながら、遺伝子発現量を決定する転写制御領域中の変異が、どのように発現量に影響するかはわかっていない。遺伝子発現に対する自然選択の検出やその原因となる変異を特定するためには、発現量の変異と転写制御領域の配列の変異の関係を包括的に理解する必要がある。そこで本研究では、キイロショウジョウバエ野生集団に働いた自然選択を、塩基配列と発現量の変異の情報を用いて検出した。発現量に影響する塩基配列として、基本転写因子と相互作用する転写制御領域であるコアプロモーターに注目して集団遺伝学的解析を行った。その結果、自然選択によるコアプロモーターの変異の集団中での拡大と多型の維持を計10遺伝子で検出した。特に、ウィルスや殺虫剤抵抗性に関わる遺伝子であるCHKov1で、コアプロモーターの配列変異による基本転写因子結合部位の変化と、発現量の減少、集団中での変異の拡大を検出した。このことは、配列変異による発現量の減少によってウィルスや殺虫剤抵抗性が上昇することで集団中に拡大したことを示唆している。本研究により、発現量と転写制御配列の両方に注目することによって詳細な進化プロセスが推定できることを示した。