| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-166 (Poster presentation)

ハシリハリアリ属における軍隊的行動の起源

*有本晃一(九州大・農),丸山宗利(九州大・博),伊藤文紀(香川大・農),山根正気(鹿児島市)

ハシリハリアリ属は世界の熱帯・亜熱帯域を中心に、304種25亜種が知られる大きな分類群である。本属種の多くは、小さなコロニーを持ち、専食性・狭食性を示す。東洋区に分布する一部の種には「軍隊アリ」と呼ばれるものがおり、数千~数万個体に達する巨大なコロニーを有し、林床を埋め尽くすほどの大集団で採餌を行い、様々な地表性小動物を捕食する。東洋区における本属の系統分類研究は全く進んでおらず、この顕著な生態の進化過程は未解明のままである。そもそも軍隊アリにはどういった種が含まれるのかといったことも未解明である。本研究では、東洋区の種を用いて分子系統樹を作成、属全体の系統関係を把握した上で、野外観察と文献情報をもとに軍隊アリの系統的位置を推定した。同時に形態観察も行い、軍隊アリにはどういった形態形質が共有されているのか調べた。解析の結果、4つの種群(processionalis種群の全種、currens種群の全種、myops種群の全種、diminuta種群の1種)に軍隊的行動が見られ、前半3種群は単系統群を形成し、他の全種群と姉妹群であり、進化的に深い位置で分岐したグループであるとわかった。この3種群では大顎咀嚼縁と呼ばれる部位が長く、歯が発達しているという形質が重要で、採餌の際に見せる「餌の解体行動」を行うのに効率的な形状であると示唆される。diminuta種群の種は基本的に軍隊アリではなく、フィリピン産の1種のみにおいて軍隊的行動が観察された。この種は同種群の他種と比して形態的・系統的になんら特徴的な部分を有さないことから、比較的最近軍隊的行動を獲得した種であると示唆される。フィリピンは前半3種群が分布しておらず、いわば「軍隊アリのニッチ」が空白となっていた場所であり、この種はその空きニッチに進出することで生態を短期に劇的に変化させてきたと考えられる。


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