| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-059 (Poster presentation)

葉肉細胞構造と蒸発散能力

*澤上航一郎,舘野正樹(東大・院・理・日光植物園)

陸上高等植物は光合成の際、葉の気孔から二酸化炭素を吸収し、水を蒸散として放出する。植物にとって水は貴重なため、蒸散以外からは極力放出しないよう、表皮細胞の表面はクチクラで覆われている。植物からの水の蒸発のおよそ95%が蒸散によるものと考えられている。葉肉細胞表面が湿っているという仮定に基づいたこれまでの蒸散メカニズムでは、葉内は湿度100%に保たれ、蒸散速度は葉温の飽和蒸気圧と外気の蒸気圧の差で決まるとされてきたが、我々の研究によると、葉肉細胞からの蒸発速度は種や葉の栽培環境によって異なり、蒸散速度に大きく影響を与えると考えられる。このため、蒸散メカニズムを正しく理解するには葉肉細胞の構造と水の蒸発能力を調べる必要がある。葉肉細胞は二酸化炭素をできるだけ効率よく吸収するため、細胞壁は薄く、膨圧で立体構造を維持しているが、その表面は疎水性であり、表皮を取り除いた葉に水滴を滴下すると撥水する。葉肉細胞表面が表皮表面のようにほぼ平面であれば、撥水性を容易に計算できるが、実際には二酸化炭素を効率よく吸収するために網目状の立体構造になっており、評価が難しい。本研究では、葉肉細胞表面に水滴が乗ったとき、水滴と葉肉細胞がどのように接触しているかを観察し、葉肉細胞表面の撥水性について評価する。また、撥水性が植物種や生育環境による葉肉細胞の構造の違いによって変化するのかを観察する。水溶性染料の水溶液を葉肉細胞表面に乗せ、一定時間後に観察すると、水溶液が触れていた表面のみが染色される。明るい環境で栽培した葉の葉肉細胞は染色速度が遅く、面積も少なかったが、暗い環境で栽培した葉の葉肉細胞は良く染まった。このことは、明るい環境の葉の葉肉細胞では立体構造が発達し、また細胞表面は乾燥を防ぐために疎水性の膜が厚くなっていると考えられる。


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