| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-079 (Poster presentation)

冷温帯常緑針葉樹アカマツの炭素移動フェノロジー

*高梨聡(森林総研気象), 檀浦正子(京都大),小南裕志(森林総研関西),中野隆志(山梨富士山研),安間光(京都大)

樹木成木は植物器官ごとに機能が特化しており、葉で光合成により吸収した炭素は枝・幹を通じて根に運ばれる間に、呼吸基質として使われたり、一旦樹体内に貯留された後、各部で生長や呼吸基質として使われたり、脱落・枯死した物を微生物が分解したりして、二酸化炭素として放出している。そのため、森林生態系において炭素循環過程を真に理解するためには、こういった炭素輸送プロセスを樹木の生長フェノロジーとともに理解する必要がある。

樹木成木における炭素輸送プロセスを解明することを目的として、2012年9月24日、12月16日、2013年7月10日に富士吉田試験地にてアカマツ成木のラベリング実験を行った。対象樹木は樹高約20.5mのアカマツであり、アクリル製の閉鎖循環型のチャンバーを幹4箇所、根2箇所に設置した。幹から放出されるCO2の同位体比はチャンバーで測定される13CO2の濃度上昇からキーリングプロットを用いて推定した。対象樹木は2013年2月からデンドロメータによる直径生長量を連続測定しており、2013年10月からヒートパルスレシオ法による樹液流速観測を行っている。また、試験地内のアカマツ5本の樹高・枝葉長の測定を一週間程度ごとに行った。

取り込まれた炭素の放出パターンは、秋季・夏季ではすみやかに下方に流れ、呼吸によって消費されていたが、冬季においては他の時期と大きく異なっており、春先、気温が上昇し、光合成・蒸散活動が活発になるにつれて、急激に下方に流下し、呼吸基質として使われることが観測された。この現象はアカマツ新芽の伸長・展葉前に起こっており、生長に先立ち転流が行われることが示唆された。また、上記のような下方への転流は日最低地温が氷点下を上回った時期に観測されており、樹液流による圧流により篩液流が発生していることが推察された。


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