| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-135 (Poster presentation)

春日山原始林における林分構造の変化

*村田沙耶,松井淳,奈良教育大学

春日山原始林は西日本の低地に残された数少ない常緑広葉樹林のうちの一つである。この森でも近年シカの採食による林床植生の衰退やナギやナンキンハゼといった外来種の分布拡大が報告され,更新の阻害が懸念されている。また,最近カシノナガキクイムシによるナラ枯れが発生している。春日山の一つの集水域13 haにおいて1990年前後に毎木調査が行われ胸高直径20 cm以上のデータが蓄積された。本研究は,同じ地域において再調査を行い樹種や生活形による成長と生残の違いに着目しつつ,春日山原始林の変化を明らかにすることを目的とした。今回の再調査では,5 haにおける胸高直径10 cm以上の樹木についてデータを取得した。

55種3553本出現し,直径階分布は明瞭な逆J字型を示した。幹数から見た主要構成種はアカシデ,サカキ,ウラジロガシであった。胸高直径20 cm以上について比較すると,ウラジロガシ,コジイ,アカガシの幹数が増加しウリハダカエデの幹数が減少した。胸高断面積は6.8 m²/ha増加していた。死亡率は1.2%/年,新規加入率は1.4%/年であった。生活形別に見ると,死亡率は常緑広葉樹1.1%/年,落葉広葉樹1.4%/年,常緑針葉樹0.9%/年,新規加入率は常緑広葉樹2.1%/年,落葉広葉樹1.1%/年,常緑針葉樹0.7%/年となった。樹種別ではウリハダカエデが死亡率(9.0%/年),新規加入率(5.4%/年)ともに最も高い値を示した。幹の肥大成長速度は2.9±2.5 mm/年であった。生活形別では,常緑広葉樹が3.3±3.0 mm/年と最も高かった。主要構成種ではコジイの肥大成長が速く5.0±3.6 mm/年であった。

この25年間では林分の現存量が増加するとともに常緑広葉樹の優占度が上昇し,遷移が進んでいることが明らかになった。今後の更新の方向を予測するためには,実生や林冠ギャップ下での稚樹の動態に注目する必要がある。


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