| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-147 (Poster presentation)

人工林冠ギャップ下におけるウダイカンバ稚樹の樹形アロメトリー

八木貴信(森林総研・東北)

林冠ギャップの形成は林床光環境を改善し下層植生の繁茂をもたらす。それゆえギャップの下は競争をはじめとする激しい植物間相互作用の場になる。ギャップ形成後の遷移過程を決定づけるのはこの相互作用で,それには植物の形質が深く関わっているので(形質媒介相互作用),植物の形質可塑性への理解は森林動態の理解深化に不可欠である。下層植生の繁茂は光環境の垂直方向の不均一性を増加するので,特に,植物個体の高さサイズに応じた形質可塑性のパターンが重要である。本研究は,冷温帯高木性の陽樹,ウダイカンバを対象に,人工林冠ギャップ下に更新した稚樹の樹形アロメトリーを解析し,その樹高に応じた樹形可塑性のパターンを明らかにする。耐被陰態勢をとる能力など,陽樹と陰樹の形質可塑性のパターンは異なるはずなので,その結果を,先行研究(Yagi 2009)による,同じく冷温帯高木樹種だが陰樹のブナ稚樹の樹形アロメトリーと比較する。調査は,奥羽山脈(岩手県北部)のカラマツ列状間伐林の伐採列(クマイザサとタラノキを主とする下層植生が繁茂)で行い,そこに生育するウダイカンバ稚樹の,樹高に対する,幹基部直径,樹冠厚,樹冠幅のアロメトリー関係を回帰分析した。その結果,ウダイカンバ稚樹では,幹直径,樹冠厚,樹冠幅のどれもが樹高に対して正比例関係を示すこと,すなわち,幹直径:樹高の比,樹冠厚:樹冠幅の比のような樹形特性に樹高に応じた変異が存在しないことがわかった。これは,ブナ稚樹に見られた「樹高増加にともなう耐被陰から被陰回避への樹形変化」を,ウダイカンバ稚樹は示さないことを意味し,そこには,樹高の小さい被圧個体での幹直径,樹冠幅,下枝の維持能力が小さいという,ウダイカンバの陽樹的性質が現れていると考えられる。


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