| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-169 (Poster presentation)

植物の香りを使った植食者と天敵の採餌行動の共進化が植物の香りの多機能性を生む

*米谷衣代(京大・生態研), 三木健(国立台湾大)

植物は植食性昆虫に食べられると特別な香りを空気中に放出する。この香りは周囲に存在する捕食性天敵昆虫に植食性昆虫の位置を知らせると同時に植食性昆虫自身にも植物の位置を知らせることになる。これらの昆虫は植物の香りが持つ情報を使いつつお互いの出方を見ながら情報源の植物に近づいていくかどうかを決断する必要に迫られる。昆虫たちの選択がどのような条件で決まるのかはこれまで明らかではなかった。本研究では食害時に植物が持つ防御オプションである、植食性昆虫の成長を直接抑える化学防御の誘導と天敵を呼ぶための特別な香り放出の過程を組み込んだ食物連鎖モデルを開発した。このモデルを用いて、さまざまな条件下での植食性昆虫と天敵昆虫による植物の香り利用様式の進化的帰結を予測した。その結果、植食性昆虫は、被食害植物からの香り量もしくは化学防御量が小さい場合のみ被食害植物からの香りを選好し、そうでなければ忌避するのに対し、天敵昆虫はこれらの条件によらず、植物の被害レベルが高いほどその香りを選好することが予測された。唯一の例外として、化学防御量が非常に高い条件下では、天敵が被害レベルの高い植物からの香りを忌避する反面、植食性昆虫は防御量の高い天敵不在の植物を選好する可能性が発見された。本研究により、植物の採用する防御オプションに依存して、植物の香りに対する昆虫の行動が多様化する可能性が初めて示された。また、植物の香り放出は、非常に広い条件下で、植食性昆虫を忌避させることと天敵昆虫を誘引することのどちらかによって食害に対する防御として機能していることを示すことができた。これらの結果は、植物の香りという情報シグナルが植食性昆虫自身へも漏えいすることで生じる昆虫同士のせめぎ合い(=情報戦)こそが、植物の防御戦略としての香り放出の有効性を支えていることを示唆している。


日本生態学会