| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-171 (Poster presentation)

樹木群衆の被食率を説明する形質は何か?:成木と稚樹の比較

*高柳咲乃(東北大・生命), 小黒芳生(東北大・生命), 黒川紘子(森林総研), 饗庭正寛(東北大・生命), 中静透(東北大・生命)

昆虫などによる植物の被食量は葉の機能形質の影響をうけると考えられている。例えば、面積当たりの窒素量が多い葉はより食害を受けやすいと考えられる。それに対し、植物は防衛形質を進化させてきた。物理的防衛としては葉の強度、化学的防衛としては、植食者の消化阻害効果をもつとされるフェノール類などが挙げられる。

さらに、被食されやすさやその影響の大きさは樹木の成長段階によって異なると考えられる。例えば、光などの資源を多く得られる成木に比べ、資源量の限られる稚樹では被食の影響が致命的になりうる。そのため、稚樹では、成木とは異なる防御戦略をとっている可能性がある。しかしながら、樹木の成木と稚樹の、被食率と機能形質との関係を多種間で比較した研究は殆どない。そこで本研究では、日本産樹木57種を対象に、1)機能形質、およびその種間関係は成木と稚樹で異なるか、2)被食率、およびその種間差は成木と稚樹で異なるか、3)成木と稚樹の被食率を説明する機能形質は異なるか、を検証した。

阿武隈山地の小川群落保護林において採取した成木と稚樹の葉の被食率を測定し、葉の強度など11種類の形質との関係を解析した。その結果、各形質の種間関係は成木と稚樹で大きく変わらないものの、縮合タンニン濃度、総フェノール濃度は成木の方が稚樹に比べ比較的高く、水分含有量は低かった。また、被食率は成木と稚樹で有意な差は見られなかったが、成木でも稚樹でも柔らかく水分含有量の低い葉をもつ種が食べられやすかった。一方、成木では、N/P比や縮合タンニン濃度が高い種、C/P比が低い種の方が食べられやすかったが、稚樹ではそのような傾向は見られなかった。

以上の結果から、成木と稚樹では被食に対する防御戦略が異なる可能性が示唆された。


日本生態学会