| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-188 (Poster presentation)

イカダモにみられる二種類の可塑的防衛とその被食者―捕食者系における発現動態

櫻澤 孝佑 吉田 丈人(東大・総合文化)

同一の遺伝子型でありながら環境変化に応じて表現型を変化させる生物の性質を表現型可塑性という。このような表現型可塑性が種間相互作用や個体群動態に重要な影響を与えると議論されてきた。被食者が可塑的に防衛形質の有無を変化させることは、被食―捕食の相互作用に影響し被食者―捕食者の個体群動態を大きく左右する。そのため、可塑的に誘導された防衛の個体群動態への効果を知ることは、被食者―捕食者系の個体群動態をより正確に理解することにつながる。また、植物などでは形態的な防衛や化学的な防衛などと言った複数の防衛形質を持つことはよく知られている。しかし、その様に複数の防衛形質を使い分けるかや使い分けの意義を詳細に調べた研究は少ない。本研究では、二種類の防衛形質を持つイカダモ株を用いて、その発現動態と個体群動態を同時に観測し、二種の防衛形質の使い分けについて調べた。

淡水に住む藻類の一種であるイカダモは、捕食者であるミジンコやワムシの出すシグナル物質に反応して、可塑的に群体(細胞が整然とイカダ状に連なった状態)を形成することが知られている。群体を形成しサイズを大きくすることによって捕食者から食われ難くなるため、イカダモは捕食者に対して誘導防衛を行っていると言える。このようなイカダモの誘導防衛はよく知られているが、群体形成のみならず、細胞集塊(細胞がランダムに組み合わさった状態で、群体よりも大きい形態)も形成するイカダモ株があることが新たにわかった。これは細胞集塊と細胞群体の二種の防御形質を持つことを意味する。発現動態と個体群動態を同時に観測し、個体群動態が二種の防衛形質にどのような影響を及ぼすかを調べた結果、捕食者存在下では群体形成よりも細胞集塊形成が先に起こる傾向が見られた。そのため、集塊形成は、捕食回避において、より防衛の高い形質かつ迅速に発現する可塑的形質であることが考えられる。


日本生態学会