| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-208 (Poster presentation)

広島県・宮島の常緑広葉樹林における生態系純生産量の時空間変動と環境要因との関係

*原菜花,奥田敏統,山田俊弘(広島大・総)

地球温暖化の対策として森林のCO2吸収機能が期待されているが、具体的な対策を実施するには森林によるCO2吸収量を正確に評価する必要がある。本研究ではその実践例として広島県宮島の常緑広葉樹林を調査対象に、森林の炭素収支の指標である生態系純生産量(NEP)の推定とその時空間変動を明らかにした。

調査は宮島の北東部の二次林を対象とし、林内に設置した永久調査区(0.6ha)内で得られた樹木の成長量、リター量、土壌呼吸量のデータをもとにNEPの推定を行った。さらに調査区を3つの地形タイプ、および3つの植物群落タイプに分類し、NEPをそれぞれの地形・群落タイプごとに推定した。NEPの時間変動の評価は2007年から2014年までの季節変化と経年変化を対象とした。

その結果、調査区全体のNEPは-1.74 tC / ha / yr で負の値を示し、CO2の排出源となっていることが分かった。また、NEPは地形及び群落タイプ間で異なり、明瞭な季節変化も示した。さらに、調査期間の7年間で森林からのCO2の排出量が年々増加したことが分かった。本研究では、NEPと土壌呼吸量の時空間変動パターンが一致したことから、本調査区におけるNEPの時空間変動は土壌呼吸が主な原因であると考えられた。

調査区全体のNEPが負の値を示したことに関しては以下の理由が考えられる。1)土壌呼吸が土壌温度と強い正の相関を持っていたことから、気候変動に伴う温暖化によって土壌呼吸の上昇が進行している。2) 島内に高密度で生息するニホンジカ(Cervus nippon)による土壌の撹乱及び糞尿の影響で、微生物の呼吸が活性化し土壌呼吸が上昇した。3)ニホンジカの強い採食圧によって、林冠を構成するような大径木や成長の早い樹種の密度が抑制され、森林の炭素貯留機能が低下した。


日本生態学会